その歌詞には、 「どれだけ弾丸が飛び交えば戦争が終わるのか? どれだけ人が死んだら、その多さに気づくのだろうか? どれだけ大きな声で叫んだら、為政者に民衆の叫びが聞こえるのか? 友よ、その答えは風の中さ、吹き荒ぶ風の中にあるのさ」と、歌われています。 伝説の吟遊詩人といわれたボブ・ディランの曲は、 1960年代初めに日本でもプロテストソングとして紹介され、 当時多くの学生たちや若者がその圧倒的なメッセージの強さに魅了され共感しました。 これを契機に日本でもフォークソングブームが巻き起こり、 岡林信康や高石ともやなどのフォークシンガーが現われました。
1960年代のアメリカ社会は、人種差別が長く続くなかで、 1968年にはキング牧師が暗殺され、ベトナム戦争が長期化するなかで、 1970年にはニクソン政権下のカンボジア侵攻がきっかけでオハイオ州では、 学生による反戦運動を制圧するために軍隊が大学へ出動する事態になりました。
日本では国会を取り囲む安保反対運動で死亡者(東大女子学生)を出しながら、 1960年に日米安保条約が締結され、いわゆる「核の傘」の下に入りました。 「アメリカが風邪をひけば、日本がくしゃみする」と揶揄されるほど、 その後もずっとアメリカ追従の外交が続いてきました。昨年の政権交代以降も未だに大きな変化は見られません。
国民の税金が国民の意思とは違った使われ方をされる半面、 企業が投じた税金は大企業の思惑に沿った使われ方が長く続いてきました。 半世紀前の日本はこれから経済の高度成長に向かって行こうとする勢いがあり、 日本企業全体の成長が、 結果として国民のためでもあるという暗黙の約束事でもあるかのように日本経済は著しい成長を遂げました。 日本経済が成長すればするほど、世界への経済的影響力も増し、 逆に世界経済の影響も受けやすくなって、日本は二度のオイルショックに見舞われてしまいました。 それでも資源に乏しい日本の英知を集中させて何とか立ち直りました。 しかし、日本経済の脆弱さは、その後のバブル崩壊で露呈し、 以後の10年以上に及ぶ経済の停滞を余儀なくされたことは周知のとおりです。 その後遺症を引きずりながら、今ではデフレのらせん階段を下っているような状態です。 日本が高度成長を遂げるためには、明らかに政治主導でなければなりませんでした。 政官財の連携がなければなし得なかったと言われるのは当然です。 しかし、いつしかその連携は利権や権力闘争のための癒着構造を生んでしまったことも事実としてよく語られます。 政界の汚職事件に明け暮れているうちに1970年代には、 すでに日本の高齢化が著しく早く進行することがわかっていながら、 明確な手立てが打てないまま時間だけが過ぎてしまいました。 高齢化とともに成熟した日本経済、社会を想定した長期計画が示せなかったことが、 間接的に今のデフレ状態にもつながっているように思えてなりません。
介護保険制度は早晩崩壊するだろうと言われている背景には、 財政的な裏付けの不透明さが増しているからでしょう。 場当たり的に利用者負担を一割から二割三割に引き上げるだけの方策しか 持ち合わせていない可能性があることもその理由の一つでしょう。 昨年の政権交代は視覚的な現象だけであって、具体的なビジョンとともに実感できていないので、 誰もが疑心暗鬼になっていくのではないか。 私の周囲にいる高齢者の話を聞くと、特に高齢者層はその思いが強くなっているように感じます。 「結局誰がやっても同じ、政権交代って何だったのか」という声がだんだん大きくなりつつように感じます。
半世紀前に、ニューヨークのグリニッジビレッジの小さなコーヒーハウスで ボブ・ディランが演奏していた『風に吹かれて』は、戦争の悲惨さを訴えたり、 民衆の叫びが聞こえない為政者を批判したりして、その時代の社会情勢を言い当てていただけではなく、 半世紀後の今をも予言していたかのようです。
施行から10年を経過しようとしている介護保険制度や、 強引に制度化してまた変えることになる後期高齢者医療制度、 訴訟に発展して見直すことになった障害者自立支援法等々、 介護、医療、福祉はこの先どうなっていくのか。
「どれだけ大きな声で叫んだら、為政者に民衆の叫びが聞こえるのか? その答えは風の中さ、吹き荒ぶ風の中にあるのさ」と、 いつまでも言っていられない状況になっています。 介護、医療、福祉のサービスを利用している人々と、 そのサービスを提供している事業関係者がもっと大きな声をあげ、 2010年中にはその答えらしき糸口くらいが見えるようになってほしいものです。
2010年1月16日掲載
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