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2007年9月のコラム:
介護事業の「差別化と競争優位性」

約2年前にも同じテーマでコラムを書きましたが、再び、「差別化と競争優位性」について取り上げます。前回は、内容的に一般的な事業運営を捉えた話でしたが、もう少し分かりやすく、介護事業に置き換えて説明する必要があると感じていましたので、再度このテーマに焦点をあててみました。

加護野忠男氏の著書、「ゼミナール経営学入門」や「競争優位のシステム」には、『事業の仕組みは、人々の協働を通じて、顧客という人々に価値を提供するシステムである。そこで主役となるのは、人間である。(人間は)損得勘定や感情に支配されるし、自ら真剣に働くこともあるし怠けることもある人間が主役なのである。・・・・・』と、ありました。

どんな事業も上述のことが前提であるということを再認識しました。そして、事業は競争であり、先行したり遅れをとったりしますが、常に競争相手より先んじていたいものなのです。

自由主義経済は、この競争によって発展してきた側面があることは否定できませんが、逆に社会主義経済の崩壊の原因は、競争原理が働かなかったとまで言われます。しかし、競争とは言えルールが必要です。あらかじめ定められたルールすなわち法律や法令などに従った競争であることが重要です。野球やサッカーなどのスポーツには、皆ルールがあり、反則があれば、レッドカードやイエローカードが出ます。審判に暴言を吐けば、退場処分になります。

同じようにこの法令遵守が踏みにじられると、白い恋人やら、ミートホープやら、古くは不二家、雪印等々、きりがないほどの実例があります。介護業界では、コムスンの不正請求事件に端を発して、最終的な決着が見られるまでにはしばらく時間がかかりそうです。

さて、介護事業における競争とは何だろうか。介護サービスの価格(介護給付費)は決まっているので、価格競争はないと言うことになります。となれば、介護サービスそのものの質(品質)を競うことになるのでしょう。(実際には競争原理が機能し難い)

例えば、あるデイサービスセンターで、マシンを使った介護予防サービスを取り入れたとします。一見、『差別化』したように思えますが、競合する同業他社のデイサービスセンターでも同様のものを導入すれば、その『差別化』はいとも簡単に崩れてしまいます。仮に、簡単に真似ができないようにするならば、余程高価なマシンで、そのマシントレーニングによる効果が実証されていて、同業他社もやすやすと購入できないことが条件となります。『差別化』策は、決して1つではなく、複数の要素を必要とします。当然のことながらマシン導入と同時にそれを取り扱うスタッフの養成も不可欠です。また、マシン導入に伴い、介護予防の効果測定もしなければなりません。さらに個々の利用者の身体能力等を分析し、予防効果の継続を図ります。この一連の仕組みが整ったことにより、『競争優位性』が生まれます。

一般的に経営者はあてもなく続く競争から逃れるために『差別化』をしていますが、介護事業経営者は、今後もサービス需要が増えると思い込んでいて、『競争優位性』など考えたこともないかも知れません。追いつかれると、また、差別化し、追いつけばさらに差別化する。差別化戦略が効果をあげている状態を「競争優位」とすれば、その状態が強固で仕組みとして機能している方が良いはずです。従って、競争優位性を高め、より継続されることが望まれます。

サービスや製品の単純な差別化では、分かりやすく目立つが、すぐに真似されてしまい、優位性が維持され難く、華々しい成功も瞬く間に色あせてしまいます。一方、事業システム(事業の仕組み)の差別化は、事業の仕組みを通じて、競争相手との違いを生み出す差別化戦略で、目立たないし分かり難く真似され難いので、優位性が維持できます。

介護事業における差別化は何でしょうか。多くの介護事業経営者は、差別化を意識しないまでも、優秀な介護職員を雇い、要介護者に喜ばれる介護サービスを提供することだと、考えているかもしれません。優秀な介護職員を雇うには、公募して他の事業所からの転職を誘うような高給やより良い労働条件を提示するのでしょうか。どこでも同じことを考えるのでしょうが、報酬単価が決まっていて決して高くはない現状では、他の事業所より高い給与を支給することは困難です。優秀な介護職員は、どこの事業所でも欲しいはずですが、地道に人材を育てるようとしている事業者は、まだ少ないように思います。

「競争優位性」を確立するには、事業システム(事業の仕組み)を整えることに他ならないということが分かっていても、具体的にどうすれば良いかが分からない、やってみたけれど上手くいかなかった、と言う話もよく聞きます。事業システムとしての業務改善が継続して行われていると言われるトヨタを見学したり、トヨタを取り上げた経営書を読んで、その通りにやってみようとしたかも知れませんが、それで成功した事例を聞いたことがありません。

介護事業で、この「競争優位性」をどう構築するかは、極めて重要な課題であり、そう簡単に為し得るものではありません。日々の積み重ねであり、常に意識されていることが最低条件でしょう。例えば、「利用者からの苦情対応は48時間以内に解決する」という目標があれば、そのために様々な工夫が必要になります。表面的な解決ではなく、利用者に納得してもらった状態で、再発防止策まで社内に周知し、誰もが理解している状態を目標到達点とするなら、それには業務の仕組みをつくらなければなりません。さらに、この一連の作業が、顧客である利用者のために必要な業務であるという認識が持続していることです。

しかし、この仕組みが「できている」と思い込んでいる介護事業経営者が意外に多いのが気になります。「自己満足経営」の多くは、利用者が喜んでいるから満足してくれていると受け止めているので、業務の改善が進まない状態に陥っていることです。

最後にもう一つ、具体的な例を提示しましょう。介護事業者は多かれ少なかれ、何らかの職員研修や従業員研修を行っているはずです。介護保険法に職員の研修をしなければならないと書いてあるから研修を行っているという場合もあれば、出来るだけ定期的にテーマを設定して行っているという事業者もあります。しかし、実施して終りなのです。その研修の効果がどうだったかについてはあまり関心を持っていないことが多いです。研修を計画し、実施してその効果がどのくらいあったのかを確認する。受講した職員が研修内容をすべて理解し身につけたということはあり得ません。誰がどの程度理解したか、何が理解され難かったのか、講師役の力量に問題はなかったのか・・・・・。様々な観点で振り返ることが十分になされていないのです。だから、「研修の仕組み」があるようでないのが現状ではないでしょうか。もし、この「研修の仕組み」だけでも完成形に近づけば、それは差別化となり、それが強固な仕組みになれば、同業他社が真似できない水準になり「競争優位性」の始まりなのです。

2007年8月27日掲載

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